要件定義の進め方

システム開発の大炎上を防ぐために、上流工程(前工程)に位置する「要件定義」について、考えていくブログです。

要件定義書の作り方
PDCAサイクルではなく、PDCサイクルを回そう
あるべきV字モデルについて整理した
スコープを決めてから、QCDの議論をしよう

COCOA開発における品確責務はどこにあったのか

はじめに

もう2年前の話になるが、新型コロナウイルス陽性者との接触を知らせるアプリ「COCOA」において、アプリを利用する陽性者間の接触通知が到達しないという不具合が、2020年9月28のバージョンアップ(1.1.4バージョンアップ)以降に発生し、4か月の間不具合として認識されなかったという話があった。流出させた不具合の大きさやそもそも4か月も不具合に気づけない体制の貧弱さなどから、当時の厚生労働省はマスコミからバッシングを受けることとなった。筆者が今年からブログを始めたということで、改めて、本件における「品格責務」について整理することとする。

COCOA不具合調査・再発防止策検討チーム|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

COCOA開発受注企業が事業費94%を3社に再委託、さらに2社に…不具合の原因企業「分からない」:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)

COCOAの品確責務はどこにあったのか?

当時の記事では、当事者間の認識不足や、責任の曖昧性などが指摘されていた。

COCOA不具合、品質管理の責任あいまい 厚労省報告書: 日本経済新聞 (nikkei.com)

COCOAの不具合放置、厚労省「認識不足や業者任せ」 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル (asahi.com)

典型的な「あるある」原因だ。ただ、筆者の目から見ると、責任はあいまいではないように見える。下記図に今回の開発体制を図示する。各社の記事をベースに、改めて委託の体制と金の流れを整理した。厚生労働省に対する窓口は、パーソルプロセス&テクノロジーだ。ということで答えはシンプルだ。品格責務は、パーソルプロセス&テクノロジーにある。発注者としての厚生労働省も国民に対してアプリの品格責務はある。そして、ベンダとしての品格責務はパーソルプロセス&テクノロジーである。責任はあいまいではない。明確である。

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COCOA開発における委託の流れ

そもそも、COCOAの品確の責任を果たせる体制だったのか?

品質を確保するには、とにもかくにも金が必要だ。システムの動作を確認するためには、あらゆるケースを洗い出し、人手を使って動作を確認する。お金がかからないわけがない。そんな金をかける余力のあったのはどこの企業か?ということで、それぞれの会社に支払われた金を上図で整理した。新聞各社の記事を参考にすると、まず、厚生労働省がパーソルプロセス&テクノロジーに3.9億支払っている。その後に、パーソルプロセス&テクノロジーが、日本マイクロソフトエムティーアイフィクサーに、それぞれ、0.84億、1.9億、0.94億支払っている。エムティーアイは、イーガーディアンとディザイアードに、それぞれ、0.38億、0.04億支払っている。各社の取り分を示す。

ここからわかるのは、パーソルプロセス&テクノロジーは、0.22億しか受け取っていないということだ。厚生労働省の対面に立つ企業であるにも関わらず、0.22億しか受け取っていない。総開発費の5%だ。自社の利益を出しつつ、5%の金額でやれることなんてほとんどないので、要件定義や要件検証がなされたかも怪しい。3.66億規模で作られるものを、0.22億の範疇で、PMO、工程管理、品質管理をするなんてことは不可能である。月200万クラスの人材を3人3か月雇ったら使い切る金額だ。おそらく、ただの丸投げ手数料だったのではないかと思われる。したがって、筆者の見解としては、パーソルプロセス&テクノロジーには、品質を確保する体制がなかったであろうという見解だ。

顧客の対面となるベンダは、人材派遣会社や商社の類であってはならない

筆者が今日言いたいことはこれだ。すでに完成していて大量生産していくものを小口で販売する場合は、商社という会社が役に立つ。不確実性が少なく大量の人に単純作業をしてほしいときは、人材派遣会社というのが役に立つ。システムというのは上記のいずれにも当てはまらない。システムというのは、大量生産するものでもないし、不確実性が高いものだ。そのため、「品質確保責務」というものが常に付きまとう。これらの品質確保責務を、人材派遣会社や商社は、負うことができないのだ。システムの品質を確保できるのは、システム屋だけだ。

品質を確保する意思のあるベンダが、一次請けとして厚生労働省の対面に立つべき

どうすればよかったのか?とあれこれ国は議論しているが、筆者としての答えはシンプルである。省庁からシステム発注する場合は、そのシステムの品質を確保できるベンダに発注すればよい。間違っても人材派遣会社や商社の類に発注をしないこと。発注してしまうと、責任を負わない/負えない会社に責任を負わせることとなる。

結論:システム発注時に人材派遣会社や商社が入っている場合は、責務分担に気を付けよう